farewell to our memories

18歳になった冬の終わりのこと。

おれはいくつかの大学を受験して、ちょうど真ん中くらいに志望していた大学に合格した。

世間的にはそこまで知られてないけど、地元での評判はそこそこで、誰に言っても良くも悪くも言われないようなところ。正直なところ、もっといい大学は分不相応な感じがしてて、かと言ってもっと下の大学はイヤだったから、素直に結果を受け入れて進学することにした。

周囲の友達を見ると、願っていた進路へ駒を進めて有頂天になっている人もいれば、もう1年浪人生として修業する決意をした人もいた。どっちの人もすごいな、自分の将来に妥協しなかった結果だもの。浪人するにしたって、これからさらに勉強するなら、きっとすごい結果を残すんだろうな。。。なんて、無邪気に考えていたら、誰かがこそっと耳打ちしてきた。


「時間をかけてみても、いい結果になるのは3分の1、結局前と同じような結果になるのが3分の1、残りの3分の1は、もっと悪い結果になるんだよ」


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それから2年が経って、成人式の時期がやってきた。

当時は軽音サークルの活動に入れ込んでいた。楽器が少し出来るだけで友達が出来て、それまで物静かに過ごしていた反動で、努めていろんな人と接するようになっていた。髪の毛なんか派手に染めて、自分を明るく見せちゃってね。前髪なんかアシメにして、口に入るくらい長かったんだよ。セットに毎日30分もかけてたら、母親と妹に呆れられたよ。。けどまあ、新しい価値観に馴染めたおかげかなあ、いつしかだいたいの場では明るく話せるようになっていた。

そんな状態で地元の友達と再会したら、子どもの頃よりずっと楽しく話が出来た。誕生日の都合でお酒は飲めなかったけど、じゃあリベンジでってことで、成人式の後もちょくちょく遊ぶようになった。それどころか、学校が一緒だった頃は全く話したことがないような人とも、めちゃくちゃに飲み歩いて遊んだりもした。

生まれ変わったみたいだ。人と再会するっていい事だなあ。成人式行ってよかった~。。。なんて、またも無邪気に考えていたら、大学で出会った友達の誰かが、ぼそっとつぶやいた。


「成人式たのしかったな。けど、あの人達と会うのは、きっと最後だったんだろうな」


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さらに7年くらいの年月が流れた。

ちょうど成人式の頃に所属していたバンドを再結成して、ライブをしようという話が持ち上がった。

願ってもない話に、おれは二つ返事で了承した。もうすっかり人との再会を楽しむマインドで生きていたし、なによりこのバンドは、あまりすっきりしない終わり方をしていたのだ。

いざ顔を合わせて練習が始まると、すべてが楽しい時間だった。あの頃必死にやっていた演奏が、あれよあれよと余裕をもってこなせた。自分達で作った曲を演奏するにつれ、当時のこともだんだんと思い出してきた。演奏したライブハウスの雰囲気、真剣に話し合った練習後の時間、日付が変わる頃に原付で走り抜けた帰り道、、そんなことに思いを巡らせて、このバンドをやったのは間違いじゃなかったなって、遅まきながらやっと肯定できた。

ぶつかり合ったメンバーも、みんな角が取れた大人になっていた。笑いながらいろんな話をして、現役の頃より肩の力は抜けているのに、演奏力はグンと上がっていた。

ハタチそこそこの頃はめちゃくちゃケンカしたのにな。練習はダメ出し大会みたいだったし、レコーディング中の夜中の2時に泣き出すメンバーもいたし、突然クビになったメンバーもいたし。。いまはそんなギスギスもなく、全員が目の前のライブに集中している。

そして、再結成ライブの日。

昔よく見た顔が集まる中、とても気持ちよく演奏が出来た。ミスと言うミスも全員無くて、こんなクオリティー、そうは出せないなってパフォーマンスが出来た。


「また、ライブが出来てよかった」


そんな満足感とともに、自分を含めたメンバー全員が共有した思いがあった。


「これでやっと、解散出来るな」


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テレビのゴールデンタイムでよく見るような感動の再会って、その後どんな運命をたどっているんだろうね。

生き別れの兄弟とか、思い出がたくさんある生徒と教師とか、芸能人の初恋の相手とか、、そんな人たちの再会シーンを見ると、とりあえずは単純に「よかったねえ」って気持ちにはなる。けど、それと同時に「この人たちが目の当たりにしている過去の関係について、いったいこれからどう扱うのだろう」って考えてしまうのだ。

時間の流れとともに、ひとりひとりを取り巻く環境だとか、その人を動かす価値観は刻々と移ろっていく。そんな変化を生き抜いた先で、「やあ久しぶり」なんて顔を合わせても、また深い仲になれるとは限らない。「あの頃が懐かしいねえ」って話が尽きた先で、今と言う時間をどう一緒に過ごせるかは、別の話なんだよね。

もちろん、個々の人格はそんな簡単に変わらない。変わってたまるか。けど、人の個性について考える時、生まれ持った持ち合わせた性格と合わせて、置かれている環境や場所によって成り立つ要素を、どうしても無視できないなって思う。

近所に住んでいた人が遠くに引っ越したり、同じ学校とか職場の仲間と離れたり、一緒に恋愛した人と別れたりしたら、手が触れるくらいの近さで一緒にうろうろした同志という性質は、きれいさっぱり漂白されてしまう。久々に会えて、相変わらず気は合うのに、もうこの人は別世界の住人なんだなって、受け入れないといけない瞬間がある。

もう、騒ぎを起こす共通の友達も、眠りを妨げるような共通の楽しみも悩みも、全部ぜーんぶ過去のもんだ。もう、一緒に戦った敵も、一緒に目指した場所も、全部時間の波にさらわれちゃったんだ。

そして、ふと気づく。「きっとこの再会こそが、本当のサヨナラになるんだな」って。


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大人の付き合いってズルいよな。

たくさんの時間とか、たくさんの物事を共有しなくても、何でも言い合ったりすることが出来るんだもん。近くにいなくても離れ離れとは言い切れないし、かといって疎遠になることが別れとも思わない。「最近会わないなあ」で、済んじゃう。

もう、つらい別れも、うれしい再会も、減っていくのかな。


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今まで生きてきた中で、出会いと別れを無数に繰り返してきた一方、時間をおいて再会した経験も積みあがってきた。

最初に出会った時より、いい距離感で付き合えるようになった人がいる。何年かの離れ離れがウソのように、また平然と友達付き合いを始めた人がいる。そして、久々に会ったら価値観が変わりすぎて、ちっとも楽しくならなかったこともある。

全部経験しているはずなのに、楽しい方ばかり見えるのは、早いうちに楽しい再会を経験出来たからなのかな。

ある時期に築きあげて、やがて終わった関係も、時間をおけばリセットされて、また新鮮な出会いになる。おれはそんな力を信じて、一度出会った人と疎遠になっても、なんとかまたその縁を手繰り寄せようしている。

一度交わった線は二度と交わることないと言うけど、おれはタチの悪い台風の進路みたいに線をねじ曲げて、もう一度交わることを試みる。きっと、今度こそはもっと素敵な関係になれるはずだからって。

なんて、やっぱり無邪気に考えていると、また誰か耳打ちするんだろう。


「時間をかけてみても、いい結果になるのは3分の1、結局前と同じような結果になるのが3分の1、残りの3分の1は、もっと悪い結果になるんだよ」