2022-01-01から1年間の記事一覧

そして、日々は続く

オトナと呼ばれる年齢に入って、それなりに時間が経った。仕事をしてお金を得るということも、余暇に趣味をすることも、親しい人と時間や体験を共有したことも、まあまあ経験してきた。それぞれで、「ああ、こんなにいい日が来るとは思わなかったな」と感動…

あの感性は

もう何年も前に、あるバンドと人づてに知り合った。 そのバンドは演奏技術もさることながら、ギターボーカルの人が作る曲が、まったくもって他の人には真似できない独特さを持ち合わせていた。ハードロック然としたリフ主体の曲もあれば、軽快な4ビートが流…

おなじ話をもう一度

どこにいるの? となりの部屋にいるよ 何をしてるの? 手紙を書いてるの そばにおいでよ でももう行かなきゃ 話をしよう …… それから 君はぼくを見つめ それから 泣きながらわらった さようなら ゆうべ夢を見たよ さようなら いつもおなじ話 おなじ話 / ハン…

視界が違っても味方であれ

自身のセクシャリティがそれほど大きな関心事でなかったおれは、ゲイとして人間関係を築き始めたのがいささか遅かった。 初めてゲイ向けのマッチングアプリをインストールしたのは、社会人1年目か2年目の頃。それから何人かと出会ってみて、まずはせっせと友…

ひとりデート

デートをするのが好きだ。 好きな人と前もって予定を立てて、どこか心ときめく場所へ出かける。身につけるものも丁寧に準備して、ふだんよりちょっとスマートな雰囲気をまとう。食事は高価である必要はないけど、多少こだわる必要はある。だって、そこをこだ…

不安を飼ってどこまでも

心なんて一生不安さ syrup16g / 生活 *** 初めて不安という感情を抱いたのは、いつのことだったかねえ。 少なくとも、恋愛感情よりは先だったのは間違いない。もしかしたら、怒るという感情よりも早くに知っていたのかも。ひらがなや九九を覚えたのと同じ…

おんなじにはなれないけどさ

「○○のおいしさがわからないなんて、人生損してる!」なんて言いまわしをする人がいるらしい。身近にいないので伝聞調だけど、まあ近しい表現は聞いたことがある。 別にまあ、こういう表現についてあーだこーだ批判することはできるとして、むしろなぜこの表…

別れ?それがどうした

僕ら最高速でいつだって 走れるわけじゃないんだって いつかは 止まってしまう日が来る それでも僕は良しとして 靴紐を固く結ぶ 前を見たあの日 My Hair is Bad / アフターアワー *** いまそばにいる人とは、いつか絶対に別れることになる。 会える状況が…

ロールプレイング

世がコロナコロナと騒ぎ出す少し前、いくつかの友達のバンドにインタビューをして、今でいうzineのようなものを作ったことがある。 当時、ライブイベントの自主企画を始めて10年が経った頃。少しずつマンネリの影がちらついていて、何か新しい役割が持てたら…

消費と消化の合間で

「コロナで休業している人だけ経済的な支援があるのは不公平だと思う。政府は普段と変わらずに働いている俺たちにも同じようにお金を出すべきだ」 コロナが流行してしばらく経った頃、友達との会話のなかでこんな意見を聞いた。 この意見を聞いて、とっさに…

感情のプロデュース

「お痛みがあったら手をあげてくださいね」 「麻酔打ちますよ。痛いですね~はい、終わりました」 「あとは、ここを埋めるだけですからね。もう少しですよ」 虫歯の治療を受けたとき、こんなふうにせっせと声かけをしてくれる歯医者さんがあった。今どきは無…

ノム・ヤル・クラス

一緒にお酒を飲むなら、お酒がなくても関係が成立する人がいい。 飲み会の場は好きでもキライでもないくらいなんだけど、打ち上げのような場はわりと好きだ。それまで何かを一緒に取り組んだ人が、最中に思っていたことを知れたときとか、見えていなかった人…

意識の外に逃がす

理解したい物事があるときは、一旦忘れてしまうくらいがいい。 本を読んでいると、いかにスラスラ読めていても、読み終わったあとに書いてあることを全然思い出せないことがある。何かを知った気はするけど、それを自分で語ることはできない。わいてきた感想…

あるものはある

魔法なんて無くて 本当に有るのは ここにいることだけ あなたがいることだけ aiko / 磁石 *** ときどき、「なんで自分はいま、この人と会っているんだろう?」と思うことがある。あるいは、「この人はどうして、自分と会っているんだろう?」とも。 別に…

良いDJ

誰かに曲を勧めるということを、もうしばらくやっていない。 音楽の嗜好は本当に多様で、自分とまったく同じ好みの人と出会った記憶がない。限りなく感性が近いなと思う人がいても、あと一歩のところでこだわるポイントが違ったりして、どこかに分かり合えな…

とっさのひとこと

つくづく、文章の世界では自由に自分を表現出来るのになあ、と苦笑いをする日々が続いている。 このエッセイ集も折り返し地点。ふだんは言葉にするテクニックも場所もないようなことを、スルスルと頭の外に逃がすことができている。掲載日の何日も前に書きあ…

抜き打ち日記

2022年9月14日(水) 朝3時にふと目が覚める。 眠りが途切れるのは自分にとってはわりと珍しい。 部屋は涼しくて足先が冷えている一方、布団をかぶっていたせいで汗もかいている。難しい時期だ。トイレに行って、Twitterとインスタを少し見て、また眠りに落…

ちょっとずつ

おれはバンドではドラムを担当することが多いけど、ちょっとだけギターやベースを弾く場面もある。だから、「バンドのドラマーの人」と定義されると、モヤっとする。 *** 前に観たある映画は、恋愛的に惹かれ合う人物たちを主人公に据えつつ、ちょっとだ…

いなくならないこと

「仲良しのおばが要介護になってね、わたしは何ができるんだろう?」 「あなたがいなくならないことが、大切だと思う」 いつぞやの友達との会話より *** オトナになってから、いろんな人から好意を向けられていると感じる機会が増えた。 「また会おうね」…

雁行

陰陽座というバンドに所属する2人のギタリストが好きだ。 叙情的なフレーズを得意とする招鬼、速弾きを得意とする狩姦。それぞれのプレイスタイルも魅力的なんだけど、とりわけ輝く場面と言えばふたりのツインリードにある。陰陽座の楽曲の間奏では、2人がそ…

日本バンザイって言いたいのだが

今になって振り返ると、つい最近まで日本という国のあらゆる面について追認するような考え方をしていたものだ。 小学生の頃から日本史の知識を集めるのが好きで、歴史上の人物のマンガにはじまり、中世~戦国期の武家の家系図、歴史小説まで読むような子ども…

祝祭のお菓子

子どもの頃、家にお客さんが来るのが楽しみだった。 お客といっても、子どもである自分あての来客ではなくて、どちらかと言えば親目当ての来客。家庭訪問の先生だったり、親戚のおじさんおばさんだったり、親の友達だったり…。そういった人たちが訪れるとき…

いいわけさがし

Is this love? This is love! キミに会いたいな 理由がなくちゃ すぐ会えないなら 何か考えなきゃ Ladybird girl / the pillows *** 会うために理由が必要かどうかって、人間関係の距離感において大きな単位だと思う。 仮に、東京と札幌くらい離れていた…

何かをしている(何もしていない)

こみ入った仕事をやっつけた帰り道、買い出しのためにスーパーに立ち寄ったときのこと。 買うものはだいたい決まってた。朝食べるバナナとか、常備してる牛乳とか、わりといつも通りな感じ。だけど、その日は気がついたら、買い物カゴを片手にいろんな売り場…

底知れなさ

人のすべてを知りつくすなんてことは、果たしてあるんだろうか。 自分は、ないだろうなと思う。どんなに好きな人でも、あるいはどんなに一緒に過ごした人でも、「この人のことなら、なんでも知ってるよ」なんて、とても言えない。もしかしたら、おれは「なん…

かわいいを手にいれた

子どもの頃、なにかを「かわいい」と評価することが出来なかった。 当時は「かわいい」という表現を、男性が好きな女性にだけ使える、好意を伝える表現の一種だと思っていた。あと犬や猫を見たときとか、オトナが子どもに使う場面とか。どちらにしても、限定…

予想を超えていこうぜ

部屋の片隅に、オーダーメイドで作ったカレンダーがぶらさがっている。毎月のページには、自分がおととし~去年にかけて撮った写真が1枚ずつ載っている。その時期の花の写真とか、出かけた先の風景の写真とか。 どの写真も我ながらよく撮れていて、月の暮れ…

おなじ話

どこにいるの? 君のそばにいるよ 何を見てるの? 君のこと見てるよ どこへ行くの? どこへも行かないよ …… ずっとそばにいるよ それから 僕も君を見つめ それから いつもおなじ話 おなじ話 / ハンバートハンバート *** 「誰かが前にも聞いた話をしてきた…

人間関係にコスパを持ち込まれる地獄にて

とあるギタリストの噂話をしているなかで、「このセッティングだったら、どんなギターでもいい音になるよね」という話になったことがある。 エレキギターの音を構成する要素はいくつかあって、エレキギター本体のほかに、実際に音を鳴らすアンプ、ギターとア…

5人くらいが見てくれたら

自分が何か人目に触れるような創作活動をするときは、いつも反応はごく少数でいいかなって思っている。 思えば、部屋にこもって何かを組み立てて、人前に出してその反応を見るサイクルにハマってから、もうずいぶんと長い時間が経つ。その楽しみを初めて認識…