5人くらいが見てくれたら

 自分が何か人目に触れるような創作活動をするときは、いつも反応はごく少数でいいかなって思っている。

 

 思えば、部屋にこもって何かを組み立てて、人前に出してその反応を見るサイクルにハマってから、もうずいぶんと長い時間が経つ。その楽しみを初めて認識したのは、中学生の頃にちょっとしたPCゲームのアドオンデータを友達とふたりで一緒に作って公開したときだったかな。他にもたくさん制作者がいるコミュニティのなか、自分たちなりの合格点を探して、毎日のように意見を交わしながら制作に励んだ。そして、自分たちのホームページで公開した次の日は、どこぞの匿名掲示板に書かれた自分たちの評判のことを、中学校の昇降口でわいわい話し合ったっけ(このとき、ポジティブな評価ばかりだったのは、本当に幸運なことだったと思う)。

 

 そのあと、次の作品を制作するにあたって、さらに高い評価を得られるような作品を作ろうか…と、意気込んだのもつかの間。ふたりともそんな気にはならなかった。ただ自分たちの作りたいものを制作し、一定の評価を得て、ということを繰り返していた。やがて、その制作活動からは手を引いてしまったけど、それはふたりが高校に進んだり、本体ソフトのバージョンアップにより制作環境の確保が厳しくなったから。状況が違えば、もうしばらくはタッグを組んでダラダラと制作活動を楽しんでいたのだろう。

 

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 ゲームの制作を離れてから、バンド活動に熱をあげて、そこからの派生でライブイベントを定期的に企画したりしつつ、ときどきどこかしらの場所で自分の文章を書いていた。ありがたいことに、どれもポジティブな評価をしてくれる人がいくらかはいて、部屋でひとり青写真を描いているときの、ささやかなモチベーションになった(文章はともかく、バンドの曲を練習したり、イベントの企画書を書くのも、自分にとってはひとりで頭をフル回転させる孤独な作業なんですよ)。

 

 けれども、自分のことを評価してくれる人を増やすことは出来なかったし、それほど興味もわかなかった。周りを見ていると、自分の作った作品をどんどん人に売り込んだり、見せ方にも相当な工夫をして、たくさんのファンを引き寄せている人がいる。それも、無理をしている様子もなく。

 

 今になって省察すると、おれは自分が作りたいものを作る過程と、それがどんな他人にどんな反応を与えるかを考える時間が好きだったんだと思う。お金もかけないし、しっかりとした基礎に固められた緻密な完成度も求めない。だけど、自分なりの合格基準には頑固で、納得できない部分はとことんこだわる。そして、他者からどんな反応が得られるか妄想する。

 

 けれども、実際に人目に触れた瞬間には、もう自分の関心のピークは過ぎ去っている。実際に得られた反応にはそんなに関心がなくて、何か感想を言われても、うまく応答できた場面は乏しい。

 

 そのくせ、反応がない状態は寂しがる。結局のところ自分にとっての関心事は、反応の中身や量ではなく、何かしらの反応が存在するか否かなのだ。もし、反応の中身を気にするならもっとキャッチ―なふるまいをしただろうし、かといって、自己満足に徹して自分だけがわかる言語で箱庭を構築するほどのストイックさもない。だいたいいつも、5人くらいが待っていてくれるくらいのスケール感を想定して、いろんな発表の場を渡り歩いている感覚がある。

 

 これまで、けっしてバズらないコンテンツばかりだけど、おれは自分で好きになれるものをこしらえてきた。その過程にはいつも、完成品を見てくれるであろう人々の顔を思い浮かべる。かれらが実際に自分のコンテンツにふれるかはわからない。いつでも評価されるわけでもない。それでも、誰かが出来上がりを待ってくれているかもという思いだけで、なんだか今日もろくでもないコンテンツを形にできそうだ。

 

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 なんの前触れもなく始めてしまいましたが、ここに「1000文字ちょっとエッセイ 30本マラソン 第2巻」を始めることを宣言します。

 

 今年の1月に「1000文字エッセイ 30本マラソン」を投稿して、お世辞にも大反響!とは言えませんが、何人かの方から暖かいねぎらいの言葉や感想をいただきました。とてもうれしかったです。

 

 あれから、なんとなくネタ帳に思いついたことをメモする習慣を残しておいたら、あっという間に30個ものお題が浮かんできました。いやはや、書き尽くしたと思ったんだけどなあ。書きたいことが浮かんでしまえば、あとは先にまとめた文章のとおりです。思い描いた青写真をなんとか形にしたいという衝動と、誰かが読んでくれるだろうという状況への甘えを抱いて、もう一度自分のテキストの海を漂うことにしました。

 

 今回も各話1000文字程度でまとめていたのですが、どれもまあまあオーバーしているので、タイトルは少し変えて「1000文字ちょっとエッセイ」としています。自分で作ったルールをダラダラとルール違反するのも、なかなかにバッド入るものですが、ルールを変えてしまえばどうということはないですね。大切なのはお題目を守ることより、必要なお題目を掲げること。けれども、適切な分量があるのも事実。ほどよい長さと、スルっと読みやすい文章を書くことを意識してまいります。

 

 さてさて、一話ごとに夜が長くなる時節です。

 読書の秋のリハーサルがてら、お付き合いいただけたらうれしいです。