力のつかいどころ

休日の特権とは、一番元気な自分を自分のために使えることである。

1本のカステラはどこで切り分けられても等しくうまい(またはまずい)みたいに、起きてから寝るまでの時間コンディションが一定だったら分かりがいいんだけど、あいにく人間そう上手く出来てない。

自分は起きてから午前中が一番いい感じに動ける。休みの日も早く起きてしまうし、起きた直後から割となんでも出来る。ホテルとかに外泊する時の朝食バイキングはいつも死ぬほど食べる。友達にドン引かれる。いっぱい食べる人に悪い人はいないというのが持論なので気にしないけど。

だがしかし、悲しくも日勤の給与所得者たるもの、平日の午前中は仕事をせねばならない。午前中は本当に頭がよく回るので、あらゆることに集中できるし効率もいい。さくさくと音が立ちそうな勢いで仕事が消えていくのもなかなか気持ちがいい。

これが昼ご飯を食べてしまうともうダメ。なにもかもがダメ。猛烈に眠気は来るし、さっきは秒で理解できたこともイマイチのみこみが悪いし、集中力もない。

昼ご飯程度でこれなので、帰宅する頃には精彩を欠きまくって出がらしの煮干しみたいな状態になっている。そんな状態でもなんとかジムへ行ったり晩飯を用意したりはするけど、楽器を触ったり本を読んだりとかは結構気合いのいる作業になってしまう。。。

こういうことを振り返って悲しくなると、朝起きてからすべてが自分の時間になる休日の存在について、本当にうれしく感じる。スターを取ったマリオばりに無敵なコンディションの自分を!自分の!どうでもいいことの!ために!使えるのである!

部屋の掃除、食材の買い出し、友達との予定の調整、読書、えっちな動画探し、、社会的に誰かを利することにつながらないクソみたいな活動を、フルパワーの自分でぶち倒すことが出来る!気持ちがよい!

むしろ元気がありあまって、自分のフルパワーを週5で仕事に、言い換えると社会的に必要とされる行為なんぞに献上しているのが腹立たしくなってきたぞ。こんなに元気な身を誰もが提供しながらも、それが集まって出来た社会はどうにも目をそむけたくなることがいっぱいあるの、ちょっとしんどくないですか?


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歳を取るにつれ、人はどんどん深みを増していくのを実感しています。

むかしむかし、まだ小学生だった頃は、同じような子どもが30人ばかし教室に押し込まれていたと思うのですよ。もちろん無個性とは言わないけど、30人が同じ教科書を相手にして、同じ運動会のダンスに楽しさだとか難しさを感じて、同じアニメやマンガの展開を気にして、おきまりの場所に出没する同じ野良犬の群れに怯えてたじゃないですか。

でもまあ、だんだんと好きな部活に入り、好きな高校に入って、好きな人を好きになり、いつしか仕事も趣味も住んでいるところもバラバラになってしまった。なんて大げさに言ってるみたいだけど、小学生の頃は、毎日フルタイムで同じ学校に通って、みんな同じような遊び方をして、近所に住んでいるという、すごい同質的だったんですよね。

それが大人になってみると、もう同じような人はほとんど見当たらない。自分の属性にしてみても、とある職場の構成員で、休日バンドマンで、地元でたまに飲む集まりがあり、特に仲間はいないけど鉄道オタクと暇つぶし程度の読書をし、特に成果が出ないもののジム通いをし、恋人がいない男性同性愛者、、ざっと思いつく程度でもこのくらいで、ひとつひとつの要素に細かい好き嫌いだとかちょっとした主義があることを思うと、自分とそっくりな嗜好だなあって人はまずいない。

毎日24時間を生きて、毎年365日を生きていれば、否応なしにいろんな出来事を通り過ぎていく。その中身により教訓だとか知見だとかトラウマだとか偏見を得て、人はここで言う「深みを増していく」と思うのです。

ここ最近、「この人はこういう人だ」って判断をするのが難しくなっている気がして、その理由として周りに居る人も年齢が上がってきて、いろんな要素を持つようになったからだと思うのですね。また、自分自身もどんどん一見しただけではどんな人が分からなくなってる気がする。

もちろん、安易に人のことを決めつけるのは危険なんだけど、一方で多少は分かりやすく相手を捉えないと、もしくは自分を捉えてもらえないと、なかなか距離が近くならないよなって考えます。聴きどころがたくさんあって細部にまで機微が行き届いた技巧派のジャズより、キャッチーなポップスの方が人が集まるしね。そして、キャッチーなものをキャッチーにするのにも苦労がある事実。

なんにしても、もう小学生じゃないので、自分の全部を理解されようとか、相手の全部を理解しようとかってのは考えてらんないなって、実感としてようやく考えられるようになったかなと思うのです。


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もっと若い頃に恋人が出来てたら、雑多な嗜好をひとりきりで抱えるのではなく、誰かと一緒に育てた価値観と共にいられたのだろうか。


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大切な物がわからない君よ
汚れを知らぬ純粋無垢が尊いだなんて 嘘だろ

謡声 / ムック