月日は百代の過客にして、行き交う年もまた旅人なり。

ふと、古戦場って行ったことがないなと思い立った。

 

思い立ったが吉日の精神としては今すぐ新幹線にでも飛び乗りたいのだけど、あいにく時は午前12時半。もうこだま号もひかり号も走ってくれない。一縷ののぞみもない。シャワーも浴びてしまったし、部屋に流している音楽も完全にリラックス用だ。まあ別に小旅行くらい明日かあさってか来週かに回せばいいんだけど、これがまた人生の終盤で面白いことを見つけてしまったものの、タイミングを完全に逃してしまうこともあるよねって暗示に感じてしまうよ。老境に差し掛かって不純異性交遊とか脱法ドラッグの栽培とかロックバンドでの活動などに興味を示しても、人生完全にリラックスモードだったら取り組めないもの。でも人生そのものに明日かあさってか来週かはない。来世はあるかもしれない。でもそれも全部嘘かもしんない。


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昔の人は生きることは苦しむことと考えていて
だからもう二度と生まれてくることのないように
リインカネーションの輪から解き放たれるために
暗い空を仰ぎ見て
アタシは生きることを
アナタと恋することを
認識しているから
アナタと再び会うために何度でも
生まれ変わりたいと思う
リインカ―ネーションがないと言うなら
カーネーションを神様に指定するべきよ
ビビアン・リーは神様と指定するべきよ
アイアン・バタフライが神様に指定するべきだわ
ワトソン君、君が記録しておけ!
生まれ変わって
虫になって
鳥になって
虫になって
また二人に戻って恋に落ちて
そうして母の日は二人の再開の記念日となって
みんなニコニコよ!
ウヒャヒャヒャヒャ~

カーネーション・リンカネーション / 筋肉少女帯


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まあそういうわけで古戦場に行ったことがないなあという話だった。そこそこに日本史とか日本の地理に興味があるので、城だとか神社仏閣には割に足を向ける方なんだけど、そういったところは今も人がせっせと集まり、日々の営みの一部としてきちんと機能しているのを感じるのだ。

兵どもが夢の跡、国破れて山河在り、、過去の傷跡が静かに息づいているような場所を、たぶん俺はまだ見ていない。いくつかの場所が思い浮かんだので、じきに訪れることが出来たらなあ。


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誰が訪れても、その土地に染みた先人たちの足跡に想いを寄せるような場所がある一方で、自分にしか分からない古戦場のような場所がきっとあると思う。

今年の夏に、自分が通っていた高校の近所を自転車で通りかかることがあった。ひとりでじっくりと通過するのは10年ぶりとかだったか。

高校の最寄り駅からの道をたどっていると、楽しかった高校生活がフラッシュバックして、、、なんてわかりいい話だったらいいんだけど、あまりそういう感情は湧いてこなかった。別に高校生活に楽しい思い出がないわけじゃ、、いや、、あんまないんだけどさ、、あ、でもそういうことか。なんていうか、毎朝の登校途上で遠くに校舎を眺めながら考えていた、高校生の頃の自分なりの問題を思い出して、そういうことと日々折り合いをつけながら乗り切った場所に居るんだなって、妙に客観視している28歳の自分がいたのだ。

視界に入る行き交う人も、あの頃は見知った人ばかりで、一緒に話を交わしながら過ごした人もいれば、名前も知らないけど同じ時間に登校するから顔は覚えてた人とか、いろんな人がいたはずなんだけど、いまとなってはみんなこの場所を思い出すこともなく、どこか違う場所で生活を営んでいる。そして、自分が通っていた高校も街も通学路も、また違う人を迎えて日々を過ごしている。ただ自分だけが迷い込んでいる。


国破れて山河在り。


きっと、日本各地の城や神社仏閣だとかは、訪れる人々は自分と同じく一見さんも多くて、「誰かが訪れる場所」としての側面がずっと存在しているから、気楽に訪れることが出来るんだろう。

けれど、自分と周りの誰かが日々を過ごし、笑い合ったり涙を流したり好きになったり恨みを持ったりした場所は、もうなんでもない場所にはなってくれない。過去に過ごしたある時間、確かにそこは戦場だったのだ。


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時が過ぎてもうすこし大人になって、夜が明けるのを眺めた場所がいくつかできた。

ある時は朝まで飲んだ帰り、頭痛と吐き気と混濁とした意識と浮ついた感情を抱えていた。またある時は、誰かと抱き合いながら朝を待って、いまこの瞬間を忘れまいとしていた。またある時は、終点が近づいた夜行バス、ひとりだけ目が覚めてしまった温泉旅行のさなか、、

白みはじめる空を眺めるのはいつも違う場所で、そのひとつひとつに思い出がある。そして、不思議なことにそのひとつひとつの場所は、物理的に再び行くのに骨が折れる場所が多い。

もう2度と行かないような、行けないような場所に思い出があることは、その場所に上書き出来ないイメージと一緒に封印できるってことだよね。

素敵なことなのかな。きっと。


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人生とは旅だという だけど
過去は跡形もなく消えていく だけど
ふたり手をつないで歩いた道のりこそが
僕にとってはそれこそが 旅だったよ

蝉が鳴いていた夏の日の午後も
雨に濡れて走ったコンビニの帰り道も
ふたりを通り過ぎたなんでもない景色が
僕にとってはそれこそが映画のようだよ

東京 / 銀杏BOYZ