あなたの10年どうだった? vol.1 - 後編
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あなたの10年どうだった? vol.1 - 前編 - またっきろぐ (hatenablog.com)
▼5年前 シン・ゴジラ。今までで一番好きだった人と付き合う。一人で水族館に通う。
■「シン・ゴジラ」ですか。
―「シン・ゴジラ」、アツかった…!
ゴジラ映画ってさ、海外のは割とリアル寄りなの。一方で日本のゴジラはね、だいたいはいきなり超兵器みたいなのが出てくるの。スーパーXとか、メーザー砲とか、絶対零度でゴジラを凍らせるとか…。だけど、「シン・ゴジラ」はリアル寄りな自衛隊とゴジラ!みたいなのがよかった。元々さ、俺は平成のガメラが好きだったの。結構、ガメラもそれに近い感じのリアル寄りの話で、そっちの方の特撮が好きで。そう考えるとね、「シン・ゴジラ」はとてもアツかった。
「シン・ゴジラ」の後に見て欲しいのがね、「ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」ってやつ。結構リアル寄りなゴジラ映画だから、観やすくてオススメ。しかもこれね、ハム太郎と同時上映だったの(笑)
今までで一番好きだった人と付き合ったのも、「シン・ゴジラ」の後だね。俺、「シン・ゴジラ」がヤベえってなって、劇場に2回観に行ってたんだけど(笑)、好きだった人はそういうサブカル寄りな趣味がすごい似てて、「シン・ゴジラ」の話をしたら、「僕は3回観に行きました」って言われて(笑)
なんだろうね、価値観だったりとかさ、例に漏れずめんどくさい性格をしてたり、サブカルなものが好きだったりさ、現代アートとかの話が出来たりもして…こんな人いるんだってなった。自分に似てる感性を持った人だった。
■付き合う前から相性すごい!じゃあすぐ付き合ったの?
―いや、半年くらい遊んでから(笑)
■一人で水族館に通ってたのはこの頃?
―そう。病んでた(笑)
家族が精神的にバランスを崩してたの。うち帰ると、病んでる人が居るのがだいぶしんどくて…。それで、家から専門学校までの間にあった水族館に一人で行くようになったの。
■その時間が癒しだったんだ。
―癒しだった~、学校サボってたもん。もうなんか、自分のお金で入学したわけだし、別にいいやって感じになってたし。
■学校に興味が向かなくなったりはした?
―興味が向かないとかではなかったね。
実技はクラスでもトップクラスに出来たんだけど、筆記とかお勉強の方がヤバくて…。学校の人たちも「そんなヤバいんだったら、仕事辞めなよ」とかって言ってくるの。お前よくそんなこと言えるなって思った。その人たちは実家で暮らしてたり、仕送りもらったりしてるけど、俺は仕事辞めたら家族みんな倒れちゃうんだよ。だからさ、そういう風に言われるのがすごいイヤで。
■学校にも家にも、味方になってくれる人がいなかった感じ?
―そうだね。一人になりたかった。
■この頃付き合ってた彼には話さなかったの?
―言わなかった。ヒモ生活してた頃、彼に自分の話をしたとき、「興味ないから」って言われたのがずっと残ってて。そういう話は言わない方がいいよなって…。
▼4年前 愛犬が亡くなる。病んで学校を中退する。
■ちょっと心配な流れが続くんだけど…、愛犬が亡くなったんだね。
―そう。すごい悲しかった。
■いつから一緒にいたの?
―小4くらいかな。だから十何年も一緒にいたの。す~ごい悲しかったけど、そんだけ長生きしたら頑張ったねってなるし。たぶん飼うと分かるんだけど、もうそろそろだなって時期が分かっちゃうの。寝たまんまになって、しょっちゅうお漏らししちゃって、そろそろか…って思ったら、その時が来ちゃって。家族みんなで落ち込んでた。もう犬猫飼わないって思った。新しいペットを迎えるのが一番いいって言うんだけどさ、ルンバでいいってなる(笑)
■学校もこの時辞めちゃったんだね。
―うん、辞めた。
あのね。鬱って移るんだよ。家族が鬱になって、ずっと一緒にいて、こっちも病んできたの。仕事もしてたし、勉強が全然出来なくて…。なんで出来ないんだろうって考えてたら、まずます病んじゃって、勉強しながらゲロ吐いてた。それで辞めちゃった…。
■辞める頃にはもういっぱいいっぱいというか。
―いっぱいいっぱいだったね。その頃、いろんなことが重なっちゃったんだよね。学期末試験の時に、元がそんな状態なのにインフルエンザにもかかっちゃって、フラフラになりながら受けたけど、結果はボロボロで…それで辞めちゃった。
■仕事の方は続けてたの?
―うん、辞めたら生活出来ないってなったから。
■付き合ってた人とは続いてたの?
―続いてたよ。今の暮らし方が難しくなったら、同棲しようかなって話にもなってたし。
■病んでる時期も一緒に居てくれたんだ。
―そうだね。
■付き合ってた彼は一番好きになれた人なんだよね。なにか思い出とかある?
―病んでたのは全然関係ないんだけどさ、お互いにアベンジャーズシリーズの映画にハマっていた時期があったのね。それを相手の家で観ていたら遅い時間になっちゃって、急遽お泊りになったの。ならもう一本観ようかってことになって、夜食を買いに近くのコンビニに行ったら、調子に乗って3,000円くらい使っちゃってさ(笑)
それで、家で買ってきた夜食を食べながら映画を観て、一緒にお風呂入って、寝間着にいわゆる彼Tを借りて一緒に寝て…、その瞬間が全部幸せだったなあ。
▼3年前 病み期から復活する。
■病み期からの復活は、何かきっかけがあったの?
―学校を辞めたことだね(笑)
■じゃあ学校を辞めたらちょっとずつ…
―1個ストレスの元が減っただけでも、だいぶラクになったね。でも、仲良かった子には何も言わずに辞めちゃったから、申し訳ないって気持ちはあったね。
■連絡とかは来なかったの?
―連絡来たことあるよ。久しぶりに洋服を一緒に買いに行ってほしいって言われて、服をふらふら~っと見たあと、ちょっと商売の勧誘を受けたりとか…(笑)「ごめん、本当に興味ないからその話やめよ?」って言って、しょんぼりさせたのが申し訳なかった(笑)
■いやいや、しょうがないでしょ(笑)
―でも、その子自身は本当にいい事をしてると信じてたからねえ。
▼2年前 好きだった人と別れる。好きだった人の好きそうな物を探したり、展示会に行く。数年ぶりにアプリを再開する。好きだった人を引きずりながら告白してきた人と付き合ってみる。
■また一山来るねえ。
―うん、好きだった人と別れた。
■なんで別れちゃったの?
―これは確か、向こうが忙しくなっちゃったんだよね。新しい仕事にチャレンジしたくなったみたいで、勉強会に行き出したりしてね。それが夢中になってるならいいかなって思いつつ、俺はうさんくさいなって思っちゃったんだけど(笑)
■この彼は長く付き合ってたじゃん。寂しいなとかってあった?
―あったね~。
■好きだった人の好きそうな物を探したりってのも、その一環?
―そうだね。当時は別れたのが悔しかったんだと思うし、彼が好きだった物を、元々自分が好きだったこともあるしね。
あと多分ね、その人に近い人をまた探し始めてるんだよね。その人に代わりになる人を探すために、「わたし、こういうものが好きです!」っていうのを、アプリとかに書くために展示会とかも行ったんだと思う。あと、その会場に行ったら、好きだった人が居るかもしれない!って思って、変な服装はしないようにしてた(笑)
■それは結構続いたの?
―どうだろう。今はその人がどうとかじゃなくて、自分が好きで観に行ってるだけだしね。でも、今も続いてるかも。観るもの観るもの、「あの人も好きだろうな」って思うかもしれないしね。
■さて、数年ぶりにアプリを再開すると。久々にやってみてどうだった?
―ナイモンのさ!アンロックって無くなったんだね!(前のめり気味に)
■最近同じような機能が復活したよ(笑)
―そうなの!?ブリでアンロックがまた見れるの!?(笑)
■そういうのは見なくなった気がするけど(笑)当時はブリでアンロックだったわけね。
―そうそう。
■じゃあこの頃はいろんな人と会ってたんだ。
―結構何人かと会ってたよ。ご飯食べに行くような友達も出来たし。あとね、「この人Gradarの時からずっと居たな~」って人が居たりとかね。
■あるある。ご近所の人とかね。
―絶対話しかけたりとかはないんだけどさ、「あ!元気だった!?」ってすごい思ってた(笑)
■アプリ上でだけ知ってる顔見知りみたいな人いるよね。
―いるいるいる。Gradar、ナイモンは青春だったなあ。
■ふふふ。いいなあ、アプリ辞められて。
―いやいや、辞めようと思えば辞められるんだよ。アプリを開いても全然タイプの人が居なくて、疲れて辞めたの。「俺、本当にタイプ偏ってるんだなあ」って謎のダメージ受けたりして辞めた。
■こんだけゲイがいるのに…
―なんでタイプの人は居ないの?ってね(笑)
■この頃に告白してくれた人がいたんだね。
―うん、居た。とりあえず付き合ってみるかって。
■とりあえずにしても、付き合えないなとは思わなかったんだ。
―なんなかったね…ヤレたから(小声)
■ヤレたらええんかい(笑)
―いや、そんだけではないけどさ~(笑)
その人には申し訳ないけど、いろんなものがちょうどいい人だった。モテるタイプではないし、顔も派手ではないし、適度にお酒飲んで、趣味とかは全然なかったけど、俺の行きたい展示に付き合ってくれたし…ちょうどいい人だった。じゃあ、ちょうどよく付き合ってみようって…、付き合った期間は最短だったけどね。
■付き合ってた間も前の人は引きずってたの?
―うん、しっかり引きずってたよ。いや、その人には本当申し訳ないけどさ、俺の好きなものの趣味に合わせてくれないかなって思ってた。前の人の代わりにならないかなって思ってた。
なんかさ、言い方は悪いんだけどさ、みんな結局何かの代わりなんだよね。俺がすごい好きだった人も、元をたどれば平成ガメラの話が出来た人の代わりだったし、代わりとして付き合ってみたら、後々になってその人のことを好きになったというだけで。
■始まりは誰かに重ねていた気持ちだとしても、日を追うごとにその人そのものに移っていく。
―そう。でもどうなんだろうね…。なんか、自分でいろんなことを諦めてるなあとも思った。
スラムダンクで「あきらめたら そこで試合終了ですよ…?」ってセリフあるじゃん。でも、諦めてもさ、諦めた後の生活が続くのであってさ、全然終了でもなくってさ。諦めたからこそ選べたこともあるんだろうし、諦めたから手に入った幸せもあるんだろうし…。幸せになる方法は、いくらでもあるんだろうなって思う。
頑張って頑張って、でも諦めるしかなかったこともあったし…学校のこととか。でも、学校を諦めたから、今こうやってお話してるのかもしれないしね。
■勉強を諦めた代わりに、おれたちも出会えたのかもしれないというか。
―そうだね。なんかさ、昔好きだったり付き合ってたりした人も、俺と一緒にいることは諦めちゃったけど、今も幸せだったらいいなって思うよ。
■この時の人と別れたのはどういう経緯?
―その人が飲みに行ったきり、2日くらい連絡が来なくなったことがあったの。いざ連絡来たと思ったら、その前の会話を普通に続けてきたの。それで「2日連絡来ないのは心配になるから、出来ないなら出来ないでも連絡返して欲しい」って送ったら、「あの日はどこどこの飲み屋に行ってて…飲み屋に行くとライン開かなくなるよね?」って言われて。は?もういいや~ってなっちゃって、適当に返事したら「なんかごめんね」って言われて、その時に無理になっちゃったの。
■じゃあ、前の人を引きずったり、とりあえず的に付き合ってても、連絡をしっかり取っておきたい気持ちもあったんだ。
―うん、そういう気持ちはあった。
▼1年前 数年ぶりに一人で誕生日を過ごす
■一人誕生日が思い出深いのね。
―元々ね、仕事の予定だったんだけど、急遽休みになっちゃったんだよね。それで、いきなり友達を誘っても「コイツ、誕生日だから遊んで欲しいのかな」とか、ツイッターで「誕生日休みになっちゃった」ってつぶやいても無理やり祝わせたみたいだなって、俺の浅はかな人間性が…この頃まだ人間だったんだね(笑)
それで必死になって、欲しいものとか行きたいところを調べてさ、観たい展示会を見つけてひとりで行って…ハチャメチャに楽しかった(笑)
■いい誕生日じゃん!
―なんか買おうって思って、5,000円くらいするグミを買った(笑)
■全然ひとりでも誕生日満喫できちゃった。
―普通に楽しかった(笑)
■1年前ってすでに新型コロナが流行ってたよね。この感じだと、割とひとりでのんびり過ごしてたの?
―うん。Switchを買ってゼルダやってたりしてた。本当に時間が溶けていくのね。恐ろしい。
■じゃあ、おうち時間がしんどいっていうのは?
―なかったね~。
▼いまのこと
■今、仕事はどんな感じなの?
―不思議な立場にいる。中途で入社して、学校に入る時にバイトになった会社に今も居てね。学校を辞めたときに、会社と相談して派遣社員になったんだけど、なぜか中途で入った頃よりお給料もらってる。
■恋愛とかはどう?
―付き合いそうな人がいるよ。その人とは会うようになって半年くらいかな~。相変わらず中途半端にモテてます(笑)
■付き合っちゃってもいいかなって感じ?
―そんな感じかね。「付き合お?」って言われたら、「いいよ」ってなるかな。
■その人は、どんなところがいいなって思うの?
―んとね、まずは俺に対して誠実であろうとするところ。それと、サブカル趣味にも理解があって、俺の趣味で行きたい展示へ一緒に行ったとき、全然映えな展示じゃないのに、デカい立派なカメラを持ってきて、一緒にバシバシ写真を撮っていて…、自分の知らないことも楽しめる人なんだなって。あと、この人も繊細でめんどくさいところがある(笑)
■その人も、マメな連絡があんまり得意じゃないとか、浮気しちゃうとかだったらヤダ?
―イヤだね~。今のところ付き合わない段階でも連絡は来てるし、その人も浮気をされたことがある人だから…浮気はしないんじゃないかな?するとしても、ちゃんと隠してくれる人だと思う。
■キミ的には、今も浮気は隠して欲しいのは変わりないし、それが誠意だと思う?
―誠意っていうより、礼儀かな。
お互いに「今日は○○のところとヤッてくる」っていう恋人ならいいのかもしれないし、「あっ、ヤッてきたんだな」って思いながら、大して触れるわけでもないっていうパートナーだったらいいと思うんだけどさ。なんかそういうものを言わないで、普通に付き合ってるけど、こっちでは浮気してる、というのを隠すなら、それを隠し通すのが礼儀なんじゃないかな。
■これから先、一生この人と一緒って関係には興味ある?
―どうなんだろうね。一生この人と一緒で居たいって思っちゃったらさ、たぶん自分の中で「この人とじゃないとダメ!」みたいなのが出来て、しんどくなっちゃうだろうからな…。
■その人に、自分がとらわれちゃうのが怖い?
―かな。俺はね、ひとりでも十分幸せだったりするからさ。ひとりで楽しい部分と、ふたりで楽しい部分を補えるのが恋人なのかな。
■ひとりでも楽しくやっていけるのが前提なんだ。
―そうだね。
■それは相手にも求める?
―う~ん、干渉とか束縛は苦手かな。俺も束縛しないから、そっちもしないで!って感じに近いのかもしれない。
■じゃあ、向こうは多少自分に依存とかしてきても、それが苦じゃなければ別にいい?
―そうだね。
■一緒に住みたいとかは?
―ひとりの時間を持たせてくれるなら、ふたりで住むのもアリかもしれないかな。二部屋。2LDK。自分の部屋はどんなに散らかってても、何もしないで!って(笑)
■これで10年間、振り返ってみたね。
―10年か~。青春してたなあ。
■そうね。すごい青春してるよ~。
―でも今も青春だよ?いつでも青春なんだねえ。
■キミにとって青春ってなんだろう?
―後から気づくものとかじゃない?ドヤ~!?
■すでに気付いちゃってるじゃん、今も青春って(笑)
―たとえばなんだけどさ、背伸びして高いレストランでご飯食べに行くのも青春だし、友達んち行ってマック大量に買ってお酒飲むのも青春だし…、いま青春してるなって思ったら青春じゃない?
■それだって、今も感じてるわけね?
―うん、いま青春っぽい。
■青春は終わってほしくない?
―終わらないんじゃない?
■言うねえ~。
―だっていい大人だけど、あの時青春してたなって思ったら青春だろうし。60代の人が帰り道に肉まん買って、それを80代になって「あの時、帰り道に肉まん買って食べてたな~」って思ってたら、青春なんじゃない?
■じゃあ、「これが青春だな」って思うことが無くなったら、青春は終わるのかな?
―感性の問題じゃない?
その時が青春なら、いつでも青春。
「文化祭の準備みたいで楽しいね」
撮影に向かう道すがら、彼は楽し気な表情を浮かべてつぶやいた。
母の日を翌日に控えた街で、カーネーション以外の花を探すことは難しい。いくつかの花屋さんをめぐって、ようやくイメージに合ったデルフィニウムを手に入れた頃には、電車が出る間際の時間になっていた。
あの時、おれの頭には明確な青写真がパーッと浮かんでいて、それを再現することに突き動かされていた。その後ろで彼は、何かが起こる過程を、穏やかに楽しんでいたのかな。
思えば、なにか縁があった人や物事について、彼は素直に楽しめる性分のように見える。気に入った創作物をそっとコレクションして、自分を好きになってくれた人との出会いを楽しみ、やがて来る別れを惜しみ、その寂しさにすら、どこか親しみをもっているらしい。
彼の心の中にある、穏やか気持ちをもたらす源泉の数々が、どうかいつまでも暖かい湯気に包まれているといいな。
聴き手・人物写真:またっきー
#風景写真は語り手からもらいました。ここまで読んでくれたあなたに、「写真失敗してすみません」って伝えといてってさ。