たけのこ

 社会人3年目の頃、一緒に仕事をしていた先輩が異動することになった。

 

 後に来たのは、年齢的にも採用年でも先輩にあたる方。自分とも顔見知りくらいの間柄だった。

 

 一緒に仕事を始めると、先輩は自分に対してとても期待してくれていたらしく、最初のうちは仕事ぶりをよく褒めてくれた。職場の他の人たちにもとても気さくに接していて、すぐに毎日くだけた表情で仕事にあたっていた。自分もまた、前々から先輩の仕事ぶりの評判を聞いていたこともあって、仕事のペースをつかんできた時期に、優秀な人と仕事ができることがうれしかった。きっと充実した時間が過ぎていくんだろうと、先輩に対して期待していた。

 

 しかし、毎日一緒に仕事をしていると、じきに粗が見えてくるというもの。だんだんと、自分の仕事の質や、コミュニケーションの取り方について、先輩から細かく指摘が入るようになった。この仕事の進め方はよくない、どうしてそんな言葉づかいをするんだ、なんて風に。そんな先輩に反発してか、自分もまた、言われることが前と違うと感じたことや、仕事の進め方が強引に思える点について疑問を持ち始め、あまり先輩に心を開くことが出来なくなっていた。そうしているうちに、先輩と机を並べながらも、会話も笑顔もあまり見られない関係になってしまった。

 

 結局、先輩とは2年間一緒に仕事をしたのち、お互いに異動して離ればなれになった。最後の日も小言を言われたのを覚えている。

 

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 あれから時間が経って、きっとお互いに期待をしすぎたんだなと思う。理想の先輩/後輩像があることを期待して、最初のひとときはそんな姿でいられた。けれども、そこから日を追うごとに評価が減点方式になり、お互いに幻滅する日々が続いてしまった。

 

 なんだか、たけのこの皮を剥ぐような行いだ。ずっしりとした期待の塊から一枚ずつ皮が取れていって、最後にはお互いが小さな存在にしか見えなくなってしまった。

 

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 たけのこが芽を出すには、数年にわたる地下茎の成長が必要らしい。そして、一度目を出したたけのこは、ものの2、3ヶ月で立派な竹に成長する。

 

 人と人が出会うときも、いきなり理想の関係になることって、そうそうないんだと思う。何かしらの出会いがあってから、ゆっくりと土壌を作る時間があり、やがて芽を出していく。急速な関係の深まりを期待するとしても、まずは豊かな関係性が育ってからだ。

 

 いま、周りに付き合いがある人たちも、みんな最初から親密だったわけではない人ばかり。出会いがあふれかえる令和の世で、どういうわけか縁が切れないで、気がついたら多くのことを知り合えている仲ばかりだ。

 

 しっかり根を張って、細く長い関係が続きますように。

 

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