君の秘密になりたい
誰かが鳴らすピアノが 黄金色した校舎に響いて
宇宙になぜか僕らふたりだけのような そんな気がした
PK shampoo / 「君の秘密になりたい」
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これを読んでいるあなたには、誰か特別な人がいるのかな。
その人とは、どんなことを共有しているんだろう。
たとえば、親密に想い合う気持ちであったり、生活を共にするという互恵関係、子どもを育てるという共通のミッションだとか。はたまた、同じ仕事であったり、趣味であったり、血縁関係であったり…、そういったものを仲立ちにして、誰かと自分は特別な存在になっていく。
そういった特別な人とつながる方法のひとつとして、他者に話さない、いや、話せない秘密を増やしていくという営みを考える。
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たとえば、不意にテレビで流れた景色を観て、そこに誰かと訪れた日のことを思い出すことがあるとする。
よく晴れた冬の日、肌を刺すような冷たい風が吹いていて、道路の脇には雪が積もっていた。お互いの日常には、それぞれにとっておきの楽しみだとか、ちょっとした懸念があって、そんな話を交わしながら、どこかを訪ねた目的を消化していった。目的は日本そばの名店だったような、山奥の古刹だったような…よく覚えてなかったりしてね。目的はさておき、隣に歩く人と親密な気分にあったのは確かだった。
こんな話を誰かにしたくなっても、同じディテールを共有できるのは、同行したその相手しかいない。別に、そのへんの人に話をしてもよいのだけど、表面をさらっただけの話題になっておしまいだ。その日の風の冷たさとか、新しくおろしたコートの色合いとか、偶然通りかかった猫と遊んだこととかを、おいそれと表現することは難しい。
一方で、このとき同行した人と今も親交があるとしたら、とても近い目線で当時の話ができる。そして、その関係にだけ通じる言語をもって、次はどんなことを楽しめるだろうとか、そんなことを夢想して、ついぞ連絡をとったりする。会った時に、話題にしたりする。
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特別な人と過ごした情景を言葉にして他者に伝えるとき、その感動が薄れてしまうことがある。
かつて過ごした特別な時間。そこに紐づく感情は、おおよそ言葉では言い尽くせないし、誰も受け取ることができない。どこか高い場所から眺める景色も、なにか一緒に築いた物事も、目を見つめ合って交わされた言葉も、あるいはなんでもない日常も、隣にいる人が特別だからこそ光り輝く。そんな感覚は、当事者間でしか共有できないんじゃないか。
誰にも伝えられないけど、誰かとだけ共有する鮮やかな感覚。
そういったものを、秘密と呼びたい。
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君の秘密になりたい 世界中でただひとり
僕の秘密になった人 きらきらと光る人
PK shampoo / 「君の秘密になりたい」