三万円

「いま、三万円あったら何に使うか」という問いに、いつでもスパッと答えられるといいらしい。

日々の暮らしのなかで、「こういうことをしたいな」というアンテナを張っていないと、ふとした時に有用なお金の使い道がわからなくなってしまうことがある。もっと大きい金額なら…ということもあるけど、使える金額に応じて自分を満たせる方法を持っておくことが大事とも聞く。

一万円でも三万円でも十万円でも、ふっとお金が手元に出来たらどうしようかね。ちゃんとおれは、自分を満たしてやれるんだろうか。


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そんなわけで、今日のお題は三万円。

パッと思いついたのは、ふらっと関西にでも旅行に行きたいなあって。ちょっと気合いの要る距離だけど、決して奮発しないと行けない場所でもなかったはず。カメラと御朱印帳を持って、ちょっとふらふらしに行ってみたい。

ところが、関東から関西という地を訪れるには、三万円と言う資金ではなかなか心許ないらしい。まともに新幹線に乗ったら、それだけで往復2万5000円くらいかかってしまう。夜行バスとかLCCとか、ちょっと工夫しないといけない。

他にもちゃんと宿を取ったり、現地での飲み食いを考えるとあっという間にオーバー。まあちゃんと節約すれば行けそうだけどね。パーっとお金を使いまくるだけが旅行ではない。

自分にとって、関西はもう初めましての土地ではない。清水の舞台の高さに恐れおののいたこともあるし、グリコの看板の前でポーズを取ったこともある。そうなると、観光というより現地の人が愛する場所を楽しんでみたいな。小説や映画の舞台になった街を歩いたり、関西にしかない名店を探したり(カレーとかラーメンとかカフェとか関東でも食べれるようなもので)、いっそのことスーパー銭湯的なところで1日つぶしちゃったり。関西弁が飛び交う中でのんびりするの、ちょっとそわそわするだろうなあ。

あーでも逆に節約に節約を重ねれば、三万円で1週間くらいは関西で逃亡生活も出来るのかな。夜行バス往復で5千円。残り2万5千円で夜をやり過ごせる場所と食べ物をなんとかして、あとは鴨川のほとりでボーッとしてられるのか。水面に石を投げるくらいはタダだろうし。そうか、なにか思いつめることがあったら、誰にも見つからないうちに関西に逃げてしまおう。

けどなんでだろう、あんまり安心感が湧かないな。


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流行りのガジェットを買うのもいいなあ。

ちょいと調べたら、Nintendo Switchが定価で29,980縁、iPadが一番安い現行品で34,800円、Kindleが1万円前後…おいおいどれも思ったより手が届きそうだ。中古とか型落ちとかもいろいろあるしね。臨時収入とかなくても、節約して買ってしまいたいな。

思い返すと、今まで物にかけるお金は必要最低限で、どちらかといえば体験にお金を使うタイプだった。旅行とかライブ、飲み会はどんどん行くけど、身の回りの物にはあまりお金を使わない。新しい物を覚えるのを面倒くさがるタイプでもあるし。

けどまあ、なんでもない日々を充実させるって大事だよね。特別な日を増やしたり豪華にするのって楽しいけど、それは何十日のうちの一日でしかない。ちょっと奮発したあれこれも、あっという間に過ぎ去り記憶となる。普段からニコニコするためのアイテムも必要だよなあ。

そんなわけで、さっきまとめたような物のどれかは、臨時収入が無くても向こう何か月のうちに買ってしまうと思う。どれにしようかなあ。


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ここまでは完全に新しい目的に対してお金を使うことを考えていたけど、ぼちぼち対処しなければならない物の事を考えよう。考えたくはないが。

まず思い当たるのは、毎日通勤で使っているクロスバイクが結構ボロボロなこと。こないだブレーキパッドが減ったので自転車屋さんに持っていったら、他にもチェーンとかタイヤとかいろいろ交換しないとマズいよと脅かされた。

でもそうだよな。毎日10kmくらいを1年半乗っているから、ざっと5000kmくらい乗っているのか。そりゃまあ部品もくたびれるよ。ちなみに日本からバングラデシュまででだいたい5000kmくらいらしいよ。おれは気がついたら、ガンジス河のほとりにたどり着けるくらい自転車で爆走していたのか。悟りのひとつでも開ければよかったのに、おれは今だって金の事ばかり考えているよ。

んでまあ、自転車くんをちゃんとメンテナンスすると、だいたい2,3万円かかると言われている。うーん、ちょっと痛い。家計が自転車操業になるよ。

こんな風に自転車の保守ですら四苦八苦していると、同世代でクルマを持っている人はすげえなあって思う。クルマがあれば、いつでもどこへだって連れて行ってくれるけど、お金も一緒に連れて行ってしまうよ。家計が火の車になるよ。

クルマみたいな大きな買い物をした人は、一目で得たものが目に見えて羨ましいなって思うことがある。そして、自分が選んだ獲物をみんなきちんと愛している。掃除したり、高い車検に出したり、キズがつくのを悲しんだり、どこか景色のいいところで一緒に写真に収まったり。

別に手に入れるのに苦労を伴わないと、そのものを大切に出来ないとは思わない。だけど、覚悟を決めて手に入れたものを大切にし続けるって手放しでは出来ないし、そんな姿をカッコいいなって思う。

自転車のメンテナンス、早めに出そう。


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自転車ですらこのありさまなので、おれの周りには一応動くけど…なものであふれている。パソコン、スマホ、電子レンジ、ギターあたりが怪しいかな。

そもそも、物にかけるお金が必要最低限なのは、使えるものを捨てることへの抵抗がちょっと強めなのかもしれない。ケチと言えばそれまでだけど、どちらかと言えば毎日見ているものに愛着が湧いてしまうのだ。

だから、御役目を果たしたカバンとか靴なんかも捨てられない。しばらくその辺に置いておいて、「あ、まだ居たの」ってタイミングで捨てることが多い。でもなんか、その方が愛がないよね。使わなくなってボロボロになるのを待って捨てるより、もはやこれまで…というところでキッパリ別れた方がいいのかもしれない。共に生きるのが愛だとすれば、別れもまた愛なんだ。おれはなんの話をしているんだ。

さっき挙げた中でも、特にパソコンとかスマホあたりはちょっと動作が怪しいこともある。動画を見ていると、たまにいいところでフリーズする。こないだは星野源の真顔のアップで固まってしまった。ちょっと困る。YELLOW DANCERは名盤だと思うけど。

電子機器も注いだ気持ちによって動作が良くなればいいのにね。ホコリを取ってあげたり、こまめに充電してあげたり、本体が熱くなってきたら休めたり。あ、でも敢えて冷たく当たった方が言うことを聞くタイプも居るのかな。DVダメ。おれはなんの話をしているんだ。

…よく考えたら、この辺は三万円じゃ解決出来ないやつだな。パソコンとかスマホの世界は予算が立てづらい。近いうちに訪れるであろうお別れに備えて、情報を集めておかなきゃ。


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ポッと三万円手に入れたらどうするか、なんて考えてたけど、実際には日々頑張ってやりくりをしないと手に入らない金額だよね。

お金を使う方法って、ちょっと考えただけでも無数に出てくるし、これは時間とか体力にも言えることだと思う。使えるリソースは限られているけど、物事や人間への興味が際限なくあふれることがある。やりたいことを全部やって、会いたい人にみんな会って、それでいて何もしない時間も欲しがるとしたら、とてもじゃないけど人生が足りないのだ。

まあ足りないものを嘆いても仕方ないし、今のところ不老不死って無いっぽいので、せめてその中で自分がやりたいことくらいは把握しておきたい。

そんな「やりたいことの棚卸し」として、たまに空想の世界の万札に思いを馳せている。


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年収が1億くらいあったら、どうでもいいことも捨てずに済むのかなあ。