午前2時の谷間みたいな場所
夜歩く君と 工場の脇の道を
闇を照らすものがまるでなくて
海の底にいるみたいだった
君の目だけ銀色で その銀色が言う
もしも私が死んで 幽霊になったら
もうこんな夜の闇は 怖くないのかしら?
夜歩く / 筋肉少女帯
***
泥のような眠りから目が覚める。ソファーに沈んだまま寝て、背中のあたりが少し変な感じだ。つけっぱなしのコンタクトが乾いている。電気はついたままで、コタツの上には晩ごはんの食器が並ぶ。
ああ、また気がついたら寝てしまっていたのか。まいったな、食っちゃ寝はデブのもとなのに。
うつらうつらと立ち上がり、乾いた目を気にしながらコンタクトをはずし、シャワーを浴びる。すっかり目が覚めてしまったので、いそいそと食器を洗い、歯を磨き、ホコリが見えたので軽く拭き掃除。まだ眠くならないな。
なんでもない日の真夜中にふと目が覚めて、なんでもなく身の回りのことを済ませる。きっとこのあとは、眠気に誘われるがままベッドに入るのだろう。そして、こんな夜がポツンと存在したことは誰も知らない。自分も、いつか忘れてしまうだろう。過ごすはずがなかった時間が不意に現れ、幻のように消えていく。そして、それを知覚しつつ過ごす時間。
なんだか、秘境に迷い込んだみたいだ。
***
何年も前、当時の恋人と一緒に夜行バスに乗ったときの話。
狭い4列シートに押し込まれ、カーテンが窓を覆い隠す静かな車内では、浅い眠気をだましながら目を閉じるほかない。非日常への高揚から散らばってしまった眠気を集め、隣に座る恋人の体温を借りながら、あまりに遅く進む時間をやりすごした。
やがて、どこかのサービスエリアに着いた。どこかの山の近くで、星がよく見える。頬をさす風が、バスに乗り込んだ街よりずいぶん冷たかった。トラックの排気ガスと、ニチレイの焼きおにぎりとかの自動販売機。まぶしいくらい清潔なトイレ。
すっかりイスの形に固まってしまった身体を引きずりながら駐車場を横切ると、一匹の猫がたたずんでいた。人に慣れているのだろうか、全然逃げる様子がない。
ふたりとも、どちらからでなく猫の近くに駆け寄り、背中をなで、間に合わせのネコ語で話しかけた。あなた、かわいいにゃあ。いつもここにいるのかにゃあ。
あのとき、猫と遊んだ時間はごくわずかで、目的地に着いてからはいろいろな場所をめぐったのだけど、どうにも真っ先に思い出せるのは、そんな真夜中のひととき。
ボクは向こう。キミはあっち。
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終電がすぎ、朝まで飲む決意表明をみんなでしたあとに過ぎた、いくらかの沈黙。まったく減らないグラスの酒を眺めた時間。アイツ、結婚したんだって。
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夢中で本を読んで、ふと我に返ったときの部屋の寒さ。人の声が聞きたくなって、ただ眺めるだけのテレビの通販番組。ハンディー脱毛器を顔に当てて騒ぐ芸能人。いまならコラーゲンマスク5枚つき。19,800円。送料無料。
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ミカンを食べた。
すると、5時になった。
メガネを、かけている。
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こりゃいいや!
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夜歩く君と 君は僕から離れぬがよいよ
闇の中は 居心地がいいけど
醜い物が 見えないだけだ
こんな深夜に 工場のポツンと灯が ふと ともる
あれはきっと 女の人の幽霊で
私と同じ 顔をしてるんだわ
夜歩く / 筋肉少女帯