渋谷・新宿・池袋

 学生の頃、東急東横線が毎日の通学ルートだった。当時はまだ副都心線との直通運転が始まっていなくて、各駅停車はもちろん、急行も特急も全部渋谷止まり。それが、大学の卒業式だかの次の日、副都心線と線路がつながって、渋谷の先にある街へも行けるようになった。自分の人生とリンクしているみたいで感慨深い。むしろ、なんか、出来すぎている…笑。

 

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 バンドの用事で渋谷に出るようになったのは、社会人として駆け出しの頃だった。いろんな路線でアクセスできる渋谷は、住んでいるところがまちまちな社会人バンドマンにとってうってつけの街。週末は3店舗あるスタジオペンタのどこかで練習をして、金の蔵とか串カツの店で終電まで飲む。練習がない日も、あちこちに点在する楽器屋を巡ったりした。

 

 やがて、再開発が始まって、よく通っていた楽器屋やスタジオも移転していった。時を同じくして新型コロナが流行りだして、バンド活動も全部休止。渋谷からは少し足が遠のいた。

 

 またいつか、バンド活動で渋谷に通うとき、街の表情だとか、一緒に歩くメンバーの顔ぶれはどんなものか、まだ想像もつかない。

 

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 ゲイとしての人付き合いが広がるなかで、新宿二丁目に初めて行ったのは二十代も半ばの頃。すぐ近くの新宿三丁目の駅まで、副都心線とつながった東横線ですぐに行ける。

 

 お酒もクラブも決して得意でなくはなくて、二丁目の雰囲気を楽しみきれたわけではないけれど、それでも夜通しふらふらとゲイバーを巡るのは楽しかった。一時期は終電で二丁目に繰り出したりもして、たまたまバーで一緒になった人たちとラーメンを食べて、始発の副都心線で帰ったりもした。

 

 あの時のラーメン屋さん、なんか数年でつぶれそうだなあなんて思っていたけれど、ついこないだ通りかかった時もしっかり営業していた。一方で、あの時一緒になった人たちとは、もう誰ひとりとして会うすべがない。

 

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 いまになって、自分にとって特別な街は池袋になった。エネルギッシュな渋谷や、ハイソさと猥雑さを内包した新宿と比べた時に感じる、池袋の居心地の良さが好きだ。

 

 バンドの練習や、友達とお酒を飲むために訪れたこともあるけれど、渋谷とか新宿より、自宅からちょっと距離がある池袋は、ちょっと特別な人や用事が待っていないと、足を延ばす機会がない。だから、池袋を訪れる時は、いつだってちょっと特別。

 

 そういえば、最後に朝まで飲んだのも池袋だっけ。といっても、飲み屋さんじゃなくて、友達がじいちゃんから譲り受けたという家でのこと。でっぷり太った飼い猫と遊びながら、友達が弾くギターに乗せて、aikoを合唱した夜がいとおしい。

 

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