東京

東京の街に出て来ました

あい変らずわけの解らない事言ってます

恥ずかしい事ないように見えますか

駅でたまに昔の君が懐かしくなります

 

東京 / くるり

 

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 憧れの街、東京

 ―そういった視点を、自分は持ったことがない。

 

 神奈川県で生まれ育った自分にとって、東京は用事があればすぐに行ける場所だった。何かの催しがあれば親が連れて行ってくれたし、どこかの年齢を超えてからは、友達と、あるいはひとりでも出かけるようになった。キラキラとしたビル群にはわくわくしたし、どこまでも人があふれる通りの一員になることは誇らしかった。けれども、それだけの感情。

 

 東京に暮らし、東京で仲間を見つけ、東京で自分を表現する…、そういったことを特別視するには、少し身近すぎた存在だった。

 

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日々あなたの帰りを待つ

ただそれだけでいいと思えた

赤から青に変わる頃に

あなたに出逢えた

この街の名は、東京

 

東京 / きのこ帝国

 

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 日常の街、東京

 ―いつしか、毎週末のように東京のどこかへ出かけるようになった。

 

 遠くの街から東京をめがけて出てきた人は、誰もがエネルギッシュだったと思う。みんな、話が面白かったり、内なる野望に燃えていり。一見穏和な人でも、溜めこんだ知識の引き出しの多さにびっくりしたりもした。誰もが、人生をこれ以上彩るためには、東京に出てくるしかなかったんだな、と思わせるようなすごみがあった。

 

 水を得た魚のように東京を生きるようになった人たちと一緒に過ごして、自分もまた、自分の知らなかった可能性をいくつも見つけられた。さまざまな人と顔を合わせ、小さいころから積み重ねてきた物事や考えをぶつけ、ときには準備や修行を重ね、ひと回り大きくなって東京の地で誰かと対峙する。

 

 東京に憧れはなかったけど、東京に青春を見出した時期が、確かにあった。

 

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ふたりの夢は空に消えてゆく

ふたりの夢は東京の空に消えてゆく

君はいつも僕の記憶の中で笑っているよ

 

東京 / 銀杏BOYZ

 

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 過去の街、東京

 ―やがて、東京で過ごす週末が少しずつ減っていった。

 

 喧騒から離れた街を楽しむ方法を見つけ、個々の人と静かな場所で過ごす休日も増えた。新型コロナの流行によって、その動きも加速していった。実家のある街へ戻った人も、パートナーとの落ち着いた生活を選んだ人も、もう何人いるだろう。

 

 もう、東京に多くの時間を費やすことはないのかもしれない。

 

 大きなターミナル駅で慣れない待ち合わせをしたこと、いままで分かち合えなかった自分の一面を共有できた素敵な出会い、言葉もなく打ちのめされるような体験と挫折、朝帰りで眺めた白みゆく空の色、出会った仲間との別れ、別れもなく疎遠になったLINEの「友だち」に見かける名前。

 

 ゆっくりと、確実に、遠ざかっていく。

 

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誰かの言葉では「東京には空がないという」

僕にも そんな言葉の日びを

過ごせた頃があったのでしょうか?

自分の目に映る 今では笑った この大空が

東京病に敗れちまった 僕には正しいというのにね

 

東京病 / cali≠gari

 

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 憧れの街、東京。

 —自分にとって、東京は憧れではなかった。

 

 それが、いつしか日常を獲得し、

 少しずつ過去になっていった。

 

 東京で出会った、みんなと一緒に。

 

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