個性派俳優


自分を守る殻が重たすぎて
すぐ疲れるんだろ?

そんなもんあったってなくたって
別に死にはしないぜブラザー

はちみつたっぷり入れた
紅茶でも飲んで落ち着けよ

何がどうややこしくなったって
君の代わりなんていないんだ

忘却のすゝめ / Brian the Sun


***


オニドリルというポケモンがすきだ。

1番すきかと言われればそうでもないんだけど、伸びやかな見た目、目つきはするどいけど優し気な表情、つかみどころのない鳴き声、、今までストーリーで出会っては捕まえて育てていたし、レベルの高い野生のオニドリルと遭遇するとうれしくなったりもした。

ただまあ、オニドリルは弱い。

元の種族値にも恵まれてないし、そんなに強い技も覚えない。同じひこうタイプなら、もっと対戦で使いやすいポケモンはいっぱいいる。でもおれはピジョットドードリオオオスバメもすきにはなれなかった。エアームドはまあまあすきだったけど。

なので、ストーリーでがんばってレベルを上げて使ってみたり、そらを飛んでもらったり、ちまちまとバトルで活躍出来る戦法を考えたり、なんとかオニドリルに役割を与えることが楽しかった。別に紙耐久でも気にしないし、ブレイブバードも覚えなくていい。そのまんまで居てくれればいいんだ。


***


このあいだ、友達のバンドのインタビューをしてきた。

おれは大学生の頃から友達のバンド同士のライブイベントを定期的に企画しているんだけど、そこの出演バンドでちょっとしたインタビュー誌を作ることになったのだ。

今回のバンドは、ギターボーカル、ギター、ベース、ドラムの4人編成で、優に5年ぶりくらいのライブだそうだ。ただ、ドラムは九州に引っ越してしまったのでインタビューは欠席。年末年始の帰省を利用してスタジオに入り、本番はわざわざ関東まで来てくれるらしい。ありがてえなあ。

そんなわけで、ドラム以外の3人と自分で居酒屋に入り、アルコールが回ってきたあたりでレコーダーのスイッチを入れてインタビューを始めた。

さっきまでの雑談とは違って、自分はほぼ聞き手の役割に徹して、3人に思い思いに話してもらう。現役で活動していた頃のこと、当時作った音源のこと、今度のライブとその先のこと、、、あまり気の利いた質問は出来なかったけど、それでも3人は楽しそうにたくさん答えてくれた。

思えば彼らの音源はもう7年も、おれの歴代の音楽プレーヤーの一角にいる。決してたくさん聞いて来たわけじゃないけど、曲名とだいたいのメロディーを覚えるくらいには親しみがある。でも、彼らと会うと改めて曲のことを聞く前に、世間話だとかでパーッと盛り上がってしまう。もしおれがこの役割じゃなかったら、歌詞の意味ひとつも知らないままだったかもしれない。

彼らのバンドはギターのアレンジがとても優れていた。とにかく勢いで弾き倒す部分もあれば、不意に涙腺が緩むようなフレーズもある。けど、そのギタリストより他のメンバーの方が個人的に親しかったので、なかなかその気持ちを直接伝えることが出来なかったのだ。けど、ここではおれはインタビュアー、、というかリスナーの代表という役割でもって、率直に「あなたのギターが好きだ」という思いをいっぱい伝えた。ギタリストの彼もおれも照れくさかったけど、彼もまた雄弁にギターアレンジについて語ってくれた。インタビュアーとギタリストという役割を借りたけど、気持ちを伝えあえたのは嬉しい。


***


自分の交友関係を見渡すと、ひねもす増え続けた役割とか肩書で成り立っているものがたくさんある。どこそこ所属の事務さん、ナントカカントカのドラマー、なんちゃらサークルのメンバー、あれこれ学校の同期、フェス仲間、ゲイ、、、そんな役どころを演じて、その立場でコミュニケーションを取れることに幾度となく救われてきた。

けれど、不意にそれらを丸裸にされた時…自分の何かしらの属性ではなくて、自分自身にスポットを当てられると未だに戸惑ってしまう。冷たい汗が背中を伝う。持ち物はまだしも、人間そのものとしての自信がないのだ。おれ自身には何もないんだってばと言いたくなってしまうし、言わなくてもいいことで間を埋めてしまう。そんな瞬間がとても恥ずかしい。

そんなことを思い過ぎて、ここ何年かひとりの時間にも意味をつけるのに必死になっている感じがする。普段こんなことをしてますよって説明がつくように。


***


フルニエの流麗で気品のあるチェロに耳を傾けながら、青年は子どもの頃のことを思い出した。毎日近所の河に行って魚や泥鰌を釣っていた頃のことを。あの頃は何も考えなくてよかった、と彼は思った。ただそのまんま生きていればよかったんだ。生きている限り、俺はなにものかだった。自然にそうなっていたんだ。でもいつのまにかそうではなくなってしまった。生きることによって、俺はなにものでもなくなってしまった。そいつは変な話だよな。人ってのは生きるために生まれてくるんじゃないか。そうだろう?それなのに、生きれば生きるほど俺は中身を失っていって、ただの空っぽな人間になっていくのかもしれない。そいつは間違ったことだ。そんな変な話はない。その流れをどこかで変えることはできるのだろうか?

海辺のカフカ / 村上春樹 著より


***


別に人を困らせない程度に、すきなことをして日々過ごしていればいいのにな。ひとりの時間くらい、誰かに説明がつかないことをしてりゃいいじゃないか。って、これまた逆の強迫観念に縛られてしまってるな。おれの時間を、なにかに役立てようが、ドブに捨てようが、役立てようとして徒労に終わらせようが、気にしてたら寿命が縮みそうだ。時間切れが近づいてしまう。

何かの立場があればこそ、伝えられた気持ちがあったこと、自分が満たされたなあと思う瞬間は、きっといっぱいあったのだ。時に、最大限に感情的になるために、ひとまず何かを演じることも必要なんだ。それはひとまず肯定しときたい。

それでいて、ふと自分の周りに長くいる人を見ると、なにかの役割を演じるその人そのものに、いまはとても興味があるし、すきなんだよなって思う。結局のところ。

職場の人も、バンドメンバーも、飲み友達も、単純な代わりは居るんだろうけど、少なからぬ時間の中を共にしたその人その人の清濁を併せ呑んで、安心だとか愛おしさを感じるのだ。そしてまた、おれもカッコいい姿から情けない姿まで、時間をかけて少しずつ受け入れてもらっている。

楽しい事をするのはすきだけど、ありのままのあなたとやるのは特別にすきだな。そんな思いを、もっとポジティブにやりとりしていきたい。人より時間、かかりがちだけど。


***


夕日も秋も日曜も 沢山はない出会いも浪費している
行ったり来たり繰り返し 僕は時代によいしょする

あなたの眼には情けな過ぎて哀れに違いない

羅針盤よさあ指してくれよ
現在地を教えて
既存の地図を暗記してもきっと あなたへ向かう

私生活 / 東京事変


***


なんてことをまとめていたら、週末に仲間と練習する東京事変の曲は今日も仕上げられそうにない。気分的には「ドラマーとしてじゃなくておれを見て!」と主張したいけど、、しばかれるな。

思えば、そのメンバーもみんな長い知り合いで、全員楽器と謝罪のスキルが高い。誰かしら曲を覚えてないだろうけど、きっと惚れ惚れするような言い訳をしてくれるはずだ。

練習の打ち上げでしばかなければ。