ひたち海浜公園
初めてひたち海浜公園を訪れたのは、2014年のROCK IN JAPAN FES.だった。
翼のゲートを抜け、いきなり眼前に現れたLAKE STAGEを見たときの感動を、今でも覚えている。雑誌やネットで何回も見かけたステージにたくさんのお客さんが入っていて、サウンドチェックのバスドラムの音が響いていた。燦々と降り注ぐ夏の日差しと、行き交う人の熱気の心地よさに、着いた瞬間からうっとりとしてしまった。
それから2019年まで、夏になると毎年ロッキンの会場として、ひたち海浜公園のゲートをくぐった。そして、数えきれないほどのステージを眺め、数えきれないほどのビールと枡酒を飲みほした。出来た思い出は数えきれないけど、覚えきれないことではない。どの記憶も、昨日のことのように思い出せる。
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ひたち海浜公園という場所自体に愛着が湧くのに、そう時間はかからなかった。ある年に、ひたち海浜公園の春の名物であるネモフィラを見に、友達とドライブに出かけたことがある。ロッキンの装飾やステージが一切ないひたち海浜公園は全然違う雰囲気で、フェスとしての装飾に隠れていた森や草原のつくりも素敵だった。丁寧に手入れがされた草木と、穏やかに吹く海からの風に、もう一度この場所が好きになった。
ネモフィラの咲く丘は大混雑だったけれど、そのほかの場所は人が分散していて快適だった。ロッキンでは7万人を収容するGRASS STAGEがあった草原で、ゴロンと寝転がっておしゃべりをして過ごす。熱気あふれる巨大ステージのことが、別の世界のことに思えた。
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まったく活気を帯びない思い出もある。
新型コロナが流行り始めた頃、いろいろと事情が重なって、メンタルがふさぎ込んでいた時期があった。そんな時に、一緒にロッキンにも行ったことがある友達が、ひたち海浜公園までドライブに連れ出してくれた。
最初は何気ない世間話だったけど、途中から自分の身の上話になった。降り出した雨を眺めながら、言葉を詰まらせてしまった場面もあった。聞こえるのはワイパーの動く音だけ。運転していた友達は、だまってハンドルを握り続けていた。その沈黙が、なによりありがたかった。
やがて、ひたち海浜公園の広大な駐車場にすべり込んだ。雨はしとしと降り続け、外出自粛の呼び声もあって人気はほとんどない。誰も乗ってない観覧車なんかを見ただけで、すぐに引き上げてしまった。
結局この日はドライブから戻ったあとも、近くの居酒屋でだらだらと一緒に居てくれた。お店も人がまばらだった。フェスの会場だった場所も、バカみたいに騒いだこともある居酒屋も、いつもくだらないことばかり話す我々も、みんな静かだった。
この時の友達には、もうすぐ子どもが産まれる。
もう、あの日のように過ごすことはないのだろう。
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自分の人生のなかで、これだけ多くの人を思い浮かべる場所を他に知らない。大学の友達も、社会人の友達も、ゲイの友達も、それ以外の関係性の人も、みんなひたち海浜公園のだだっ広い原っぱでつながっていた。ひたちなかの大空のことを、一緒に思い出せる人がたくさんいる。
そんな場所に出会えた幸運を、あたたかく思う。