よびみず

 

 ずーっと趣味に生きていたいなんてことを、ずーっと考え続けている。

 

 学生の頃、結局やりたい仕事も思いつかなかったけど将来のために努力をしたい気持ちはあって、就職のためにそこそこ努力をした。そのかいあってか、結果的には安定して趣味を続けられそうな仕事に就くことができた。なんのかんのと仕事をしては給料をもらって、ときどきで興味を持てた物事を楽しむ。ふらふらと遊んでいるうちに、時間はとめどなく流れていった。

 

 働き出してから10年くらいが経った。最初に思っていたとおり仕事はそんなに発展することもなかったけれど、趣味のほうも何かを大成させた実感がない。手あたりしだいに楽しそうなことを見つけては微妙な仕上がりで満足してしまって、これといって目を見張るような成果はない。

 

 気がついてみたら、なんでもない友達がとてつもなくおおきな仕事を動かす立場になったなんて話を聞くようになる。たくさんの人とお金を動かす責任を背負って、かれの考えのもので多くの物事が動いていく。ああ、でもかれはずっと前から頑張ってたもんな。かれがどこかで歯を食いしばって努力してきた話を聞くの、好きだったな。そんな下積みが報われるくらいには、おれたちは歳を重ねたんだな。

 

「時間も出来たからなあ、また趣味もやろうかな」

 かれの成功について自分ごとのように感慨にふけていると、かれは横でぼそっとつぶやいた。どうやら、かれは仕事のために封印していた趣味を再開したいと思っていたけれど、過去に一緒にやっていた仲間の多くと離ればなれになっていたらしい。

 

 素直にうれしかった。

仕事の世界で存分に才能を発揮するかれは、ずっと前は趣味の世界でもまた輝いていたからだ。もう見れないものとばかり思っていたかれの輝きを、またそばで見ることができるんだ。かれと一緒に楽しめるなら、だらだらと趣味をやめなかったことも悪くない。自分も趣味の世界から脱していたら、もうかれと同じ世界で笑うこともできなかっただろうから。

 

 自分が趣味を続ける理由をはたと考える。

 学生の頃はただただ自分の関心を追求し続けるためだった。知識を集めて技巧を積んでちょっとでも成長で来ていれば楽しかったし、一生それで満たされ続けるとも考えていた。やがて時は流れ、コツコツニヤニヤと趣味に励むおれの姿を見て、一度は押し入れにでもしまい込んだ趣味への欲をかき立たせる人が出てきた。そんな姿を見て、自分のしょぼい趣味活動も誰かが輝くためのよびみずになることに気づく。

 

 おれは趣味を大成させられなかった。

そのかわり、おれが趣味の世界に居続けることで、周囲の人々が引っ込めてしまった一面を表出させるきっかけくらいは、いささか提供できるようになったらしい。時間を経て趣味の花を再びパッと咲かせる友達に刺激されて、自分もまた趣味をやめることなんかできなくなった。

 

 なかなかいい役回りにありつけたもんだ。