お餞別
もうお別れという人に、とっておきのお菓子をあげた。
この人がどんな場所にいくのか、おれはよく知らない。
けれども、もし甘いものが満足に食べられない場所だったらどうしよう。どこかにあったとしても、そのありかを見つけるまでに時間がかかってしまうかもしれない。そもそも、新天地までの旅路はどれほどだろう。それまで、この人は甘いものを食べられなくて、ひもじい思いをしてしまう。
そんなことを想像すると、おれはとびきりおいしいお菓子を持たせずにはいられなかったのだ。
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もうお別れという人に、きれいな花束をあげた。
この人がどんな場所にいくのか、おれはよく知らない。
けれども、もし美しいものがめったに見られない場所だったらどうしよう。どこかにあったとしても、そのありかを見つけるまでに時間がかかってしまうかもしれない。そもそも、新天地までの旅路はどれほどだろう。それまで、この人は美しいものを見られなくて、ひもじい思いをしてしまう。
そんなことを想像すると、おれは今の季節を詰め込んだ花束を持たせずにはいられなかったのだ。
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もうお別れという人に、思いを込めた手紙を書いた。
この人がどんな場所にいくのか、おれはよく知らない。
けれども、もしこの人に思いを寄せる人がいない場所だったらどうしよう。どこかにあったとしても、そのありかを見つけるまでに時間がかかってしまうかもしれない。そもそも、新天地までの旅路はどれほどだろう。それまで、この人は誰からの思いも感じられなくて、ひもじい思いをしてしまう。
そんなことを想像すると、おれはありったけの気持ちをしたためずにはいられなかったのだ。
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もうお別れという人が、窓越しに見た表情とともに去ってしまった。
あの人は移動中の待ち時間に甘いケーキを食べて、着いた先は花と緑にあふれる美しい街だったと連絡があった。一緒に送られた写真には、向こうで再会したという旧知の知人が肩を寄せて写っている。
ああ、何もかも心配のしすぎだったな。よかったよかった。
きっと、何回目かのお茶の時間にお菓子はなくなり、花はしおれてしまって、手紙から思い出される表情は薄くなっていく。そうしておれたちは、気がつかないままに本当のお別れを迎えるんだ。
そんなことを想像しても、おれは旅立つ人に何もせずにはいられないのだろう。